昭和40年代半ば、父に連れられて栄の山本屋総本家に行きました。当時からすでに歴史を感じさせるたたずまいで、お店のカウンターに座り、1センチほどの太い木箸で食べたのを今でも覚えています。
味噌煮込みは当時300円くらいだった記憶があります(すがきや店舗のラーメンが80円だった時代です)。カウンターの目の前にある厨房で、熟練の職人さんが一列に並んだガスコンロで沢山の土鍋を煮込む様子に見とれていました。
味噌煮込みの元祖には「武田信玄の陣中食(ほうとう)」説や「一宮の織物工場発祥」説など諸説ありますが、個人的には愛知で大正時代に始まった家庭料理の「だんちん」がルーツではないかと思います。「すいとん」の一種として、赤味噌の汁に小麦粉を水で練った塊(だんご)を手でちぎって入れ、ネギや大根など家にある野菜と一緒に煮込む家庭料理です。同世代の方なら、ご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「山本屋本店」と「山本屋総本家」の違い
ちなみに、名古屋の味噌煮込みうどんを代表する2大老舗の歴史はこちら。
- 山本屋総本家:大正14年(1925年)創業。名古屋市中区の大須で「山本にこみ」としてスタート。
- 山本屋本店:昭和20年代後半〜30年代初頭創業。中村区(太閤通)の「山本屋」としてスタート。
両店は名古屋人の人気を二分する名店として今も愛され続けています。
なぜこれほどまでに味噌煮込みうどんは名古屋で人気なのか?
そのルーツの背景には、ある即席めん(袋麺)の存在があります。
「出前一丁」が爆発的人気となった昭和43年の約2年前(昭和41年)には、スガキヤ(寿がきや食品)の即席袋麺「みそ煮込」が愛知限定ですでに発売されていました。発売と同時に市民から大きな驚きと歓迎をもって迎えられ、圧倒的なスピードで家庭に定着していきます。
当時は5袋パックではなく、ばら売り1袋で40円。幼少期に家庭で卵を入れて、ご飯と一緒に食べていた同世代の方は多いのではないでしょうか? 土曜日に学校が半ドンで終わると、家に帰って吉本新喜劇を見ながらこの味噌煮込みを食べた……という方もかなりいらっしゃるはず。もちろん私も大好きで、今も定期的に家で作って食べています。
こうして、名古屋人の舌と心になくてはならない「家庭の味」としてしっかり浸透していったのです。 もしもスガキヤの味噌煮込みがなかったら、名古屋の味噌煮込みうどん文化はここまで根付いていなかったのではないでしょうか。
山本屋本店 桜山店へ!こだわりが詰まった極上の一杯
今回訪問したのは「山本屋本店 桜山店」。
他店同様の人気店で、平日でも昼時は必ず並びが出ます。車での来店は駐車場が満車の場合、道路で空きを待つことになりますので注意が必要です。
店内はとても広くて天井が高く、歴史を感じる純和風の落ち着いた雰囲気で、総席数は120席ほどあり、小上がりの座敷とテーブル席が用意されています(注文はタッチパネル方式)。
そんな落ち着いた空間で楽しむ味噌煮込みうどんの魅力は、やはり老舗ならではの確固たるこだわりにあります。
創業当時からの伝統の味を守りながら、今も一つひとつ手づくりで作られています。
山本屋本店の美味を支えるこだわり
- 独特のコシがある生めん 吟味された小麦粉と水だけを使い、塩を一切入れないのが特徴。熟練の職人が季節や天候による粉の肌合いを感じ取りながら仕上げる手打ち麺は、しっかりと芯のある独特の噛みごたえを生み出します。(※麺の固さが気になる方は、注文時にリクエストすれば柔らかめに煮込んでもらうことも可能です)
- 香りたつオリジナルだし かつお節専門の職人が見極めた削り立てのかつお節に、むろ鰺(あじ)とそうだ鰹の2種類の荒節をブレンド。作り置きをせず、毎日毎朝新鮮な状態でとる出汁こそ、実は最大の特徴だと思っています。とにかく香りがいい。
- 大釜でじっくり炊き上げる熟成味噌 3年間じっくり時間をかけて醸造した地元特産の赤味噌・白味噌を使用。この2種類にザラメを独自の秘伝技術でブレンドし、艶が出るまで大釜でじっくり炊き上げています。
- 具材とおもてなし 具材は生卵、ネギ、かまぼこ、油揚げ。生卵が苦手な方は頼めば火を通してくれます。お口直しには自家製の美味しいお漬物が付き、平日ランチタイム(11:00〜15:00)にはご飯もサービスされます。この白米がまた美味しい。
熱々の土鍋で味わう至福のひととき
今回注文したのは、味噌煮込みうどん:1,240円(税別)/ 平日ランチタイムは自家製漬物・ご飯付き

ぐつぐつと音を立てる熱々の土鍋が運ばれてきたら、蓋をそっと開けます。その蓋を逆さに持ってよそって食べるのが定番。わたしはご飯にバウンドさせて食べる派です。ちなみに、蓋によそって食べるため、蓋に空気穴は開いていません。
店舗で使われている土鍋は、伊賀の陶土で専用に焼き上げられたオリジナルの逸品。使い込むほどに炎で鍛えられ無数の「貫入(ひび)」が入ることで、歳月を経るほどに味が深まるそうです。その効果で見た目にもおいしそう。
蓋を開けると、八丁味噌ならではの濃厚なコクと芳醇なお出汁の香りがふわっと立ち上り、食べる前から食欲を刺激します。
スープを一口飲めば、濃厚な深みと出汁の旨味が凝縮された絶品の味わい!そして何と言っても、噛み応え抜群の固めでコシのある麺。噛むほどに小麦の風味と濃厚な味噌が口いっぱいに広がります。
私のおすすめの食べ方は、麺が減ってきた中盤に、卵をご飯の上に乗せ、そこに濃厚なスープを投入。それをおじやのようにしてレンゲでいただくのが最高に好きです!
あっという間に最後までしっかり美味しく楽しませていただきました。麺の量が少なく感じるかもしれませんが、ご飯と一緒に食べるとベストな量だと思います。ご馳走様でした!
名古屋に暮らす人ならではの「幸せな食文化」
昭和40年代の「スガキヤ味噌煮込みが家にある風景」と、「お店で食べる味噌煮込みの贅沢」というグラデーションは、令和の今の名古屋でも形を変えずにそのまま受け継がれています。
家で手軽に楽しむスガキヤの味噌煮込みも最高ですし、お店で本格的な味を堪能するのも最高。名古屋人なら誰もが、それぞれのシーンに合わせた「我が家の定番」や「お気に入りのみそ煮込み店」を持っているはずです。「どんだけ味噌好きなんだてw」
この「日常の味」と「特別なお店の味」という2つの味噌煮込みをシーンに合わせて楽しむ感覚こそ、名古屋ならではの幸せな食文化だと思います。
店舗情報:山本屋本店 桜山店
営業時間:11:00〜21:30(L.O. 21:00) ※麺・出汁がなくなり次第、早仕舞いの場合あり
ランチタイム:11:00〜15:00(平日 月〜金)
定休日:年中無休
禁煙:終日禁煙
予約:土日祝・混雑時は不可
駐車場:無料 12台分 近くにコインパーキングあり


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